丁度角に当たってるの
2013年7月06日土曜日
「一日中靴を履いていたら、足が納豆足になっていたんだよ」
「靴を脱がないでください」
「そういうわけにはいきません」
「いいえ、けして脱がないでください」
「今日の朝食はなんでした?」
「納豆でした」
「じゃあ、いいじゃないですか。一日中履いていたから、私もそろそろ靴を脱ぎたいのです」
「まあ、仕方ありませんね。では、少し離れているので、どうぞ脱いでくださいな」
「お言葉に甘えて靴を脱がさせてもらいますが、せっかくですから、ネギと醤油とごはんを用意していただけませんか?」
「それはなぜですか?」
「この香りを無駄にはしたくはないのです。なにせ一日中耐えに耐えた想いというものを無駄にはとてもできません」
「お気持ちはわかりますが、靴を脱ぐ事とそれでごはんを召し上がる事とのつながりがまだわかりません」
「大丈夫。靴下の臭いを嗅ぐだけですから」
「いつもそんな事をなさるのですか?」
「いいえ」
「そして、ここは風俗店です」
「重々承知しております」
「ご飯はおそらく事務所にも用意していないでしょう」
「そうですか、それはとても残念な事です」
「申し訳ありません」
「いえ、そんなに気落ちされなくても」
「それでは、私を召し上がってはいかがでしょう?」
「どれどれ」
「さあ、さあ」
「うっぷ・・・ マンシュウぎょうざ」
「あなたはとても失礼な方ですね」
「これは失敬。私とした事が、マナー知らずな事を言ってしまいました」
「ええ、ええ。そうです。私はとても傷つきました」
「申し訳ありません。お詫びいたします」
「その言葉だけではとても私の気がおさまりません」
「それはなぜですか? どうしたらよろしいのですか?」
「納豆足とわたくしのコーマンの臭いとどちらが酷いかと問われて、わたくしのコーマンの臭いの方が酷いと言われて傷つかない年頃の娘がございますでしょうか?」
「おいつくですか?」
「ひとりです」
「それは見てわかります。年齢はいくつですか?」
「52でございますわ」
「年頃ではございません」
「年頃ではないかもしれませんが、心はいつまでも乙女のつもりです」
「風俗店じゃないですか」
「失礼ですわ」
「そうですね、これは失礼な事を言ってしまいました」
「でも・・・」
「なんです?」
「そうやって謝ってくださるなんて、とても礼儀正しい人」
「そんな」
「あなたのような礼儀正しい人にはしばらくお目にかかっておりません」
「そうでしたか」
「ええ」
「では、早速・・・」
「早速?」
「俺様の納豆足の靴下の臭いを嗅げ!」
「ヒッ! ヒィイイイイイ!」
「いかがですか?」
「軽く吐きましたわ」
「え? どこへ?」
「靴下の中へ」
「これを履いて帰らなくてはならないというのに」
「これでおあいこじゃないですか」
「まあ、そうですけども、家に帰ってから、どうやって妻に説明をすれば」
「奥様がいらしてこういうお店にいらっしゃるのはとても良くないことに思いますわ」
「それはわかってはいるのですが、僕の納豆足の臭いを嗅いだだけで、それ以上の事には応じてはくれないもので、仕方なく」
「そうでしたか」
「どうやって言い訳すれば」
「そうですねえ・・・ トイレに紙がなかったから、その靴下で拭いたと言ってはいかがですか?」
「そうですねえ・・・」
「それがいいですわ」
「でも、インキンになるじゃないですか、それが本当であるならば」
「ええ、そうでしょう」
「でも、インキンではないんですよ、僕は」
「でも、一日でインキンになるものなのですか?」
「それはわかりません」
「それじゃあ、その靴下をあなたの大事なところに被せて実験してみましょうよ」
「そうですか」
「どうですか?」
「なんかネチャネチャします」
「吐いたものがついているのでしょう」
「そんなもんを大事なところに被せさせるんじゃありません」
「お後がよろしいようで」