むき出し小五郎

2013年8月31日土曜日

「こうやって魚を釣るのって、なんていうのかなあ・・・」
「なに?」
「大自然の中で、魚相手にバトルする、そういう・・・」
「バトル・・・」
「そう、その駆け引きだよね、釣り竿を伝わる振動と魚が糸を引く力と、糸が切れないように、逃げないようにする駆け引き」
「ふむ、ふむ」
「で、全然かからないんだよ」
「そうだねえ」
「かれこれ2時間にはなるんだが、ちっとも引かないんだ」
「浮き見えてる?」
「見えてないよ」
「そりゃ、そうだよ。針が俺にずっと引っかかってる」
「俺はなんて馬鹿なんだ! ああ!」
「今頃気がついたか」
「ああ! ああ! 俺は! 俺は! 俺はあああああ!」
「悔やんでるねえ」
「こうなったら、貴様を釣り上げた事にして、貴様に墨を塗りたくり、貴様の魚拓ならぬ、人拓を取るしかないな」
「それはよしてくれ」
「この期におよんで、怖気づいたのか?」
「ああ! そうだよ、俺は怖気ついたのサ! っていうか、そんな馬鹿な事に協力したくない」
「俺も意地だ」
「俺だって意地だ」
「このまま、何も釣り上げなかったなんて事にはできない」
「俺だって、体中に墨を塗って、そんな馬鹿な事に協力したくはない」
「気持ちいいんだぞ?」
「そうなのか?」
「二度試したが、筆の感触が忘れられない」
「そうだったのか・・・」
「ナイショだぞ」
「ああ・・・」
「で、やるか?」
「うん」