馬車にしないでよ
2009年9月25日金曜日
「10歳の頃まで、この街で育ったんですよ」
「そうなんですか・・・」
「この辺も変わったなあ・・・」
「ええ」
「ここにあった酒屋さんがコンビニになったんですねえ」
「そばやです」
「あれ? 酒屋さんじゃなかったっけ?」
「違います」
「じゃあ、記憶違いかな・・・」
「でしょうねえ」
「ここを曲がるとたしか学校が・・・」
「それは、まだあります」
「ありますか。良かった。変わらないのもあって」
「去年できました」
「あれ? 去年?」
「ええ。去年」
「その前は?」
「その前も学校」
「じゃあ、あってる」
「ええ」
「それで、もう少し行ったところに工場があって・・・」
「ええ、ありました」
「今は、なんになったんですか?」
「空き地です」
「空き地!」
「なんかマンションの工事らしいんですけどね」
「へえ・・・ マンションねえ・・・」
「ええ。マンションらしいですよ」
「なんか懐かしくてちょっと涙腺が緩んできましたよ」
「今がチャンスだ!」
「ああっ、バッグが!」
「その手を離しなさい!」
「こっちのセリフだ!」
「離しなさい!」
「オレの鞄なの!」
「ええい、ええい! 離せ! 離さんか!」
「オレの鞄なの!」
「今からオレの鞄なの!」
「そうだったんですか、これは失礼」
「わかればそれでよろしい」
「懐かしい風景ですねえ」
「懐かしいですか」
「ええ」